京都精華大学国際マンガ研究センター 第1回国際学術会議
2021年03月15日公開
世界のコミックスとコミックスの世界―グローバルなマンガ研究の可能性を開くために
日時
2009年12月19日(土)午前10時15分〜午後0時30分
国際会議2009 発表要旨
セッション1:少女マンガ、女性コミックス~ジェンダーとジャンルをめぐって
司会 大城房美(筑紫女学園大学准教授、女性コミックス研究)
<トリナ・ロビンス/Trina Robbins>コミックス作家・女性コミックス研究家
「パツィ・ウォーカーからプリンセス・アイに至るまで:ガールズ・コミックスと少女マンガの普遍性を巡って」
1950年アメリカでは、ニューズディーラー誌が少女の方が少年よりもコミックスを読んでいると報告した。しかし少女向けアメリカン・コミックスの黄金期は、1940年代から50年代にかけてのわずかな期間であった。1960年代には、少女向けコミックスは少年向けのスーパーヒーロー・コミックスに道を譲る。1995年にはDCコミックスに女性読者が占める割合はたった2%にまで落ち込んだ。しかし、日本のコミックスーマンガの流入と同時に、コミックスの女性読者の数は増え始める。それは女性読者と1950年代のアメリカン・コミックスの関係の再来なのか。女性読者と1950年代のアメリカン・コミックス、そして現在のマンガの間に何らかの関係を見いだせるとすれば、それは何か。本発表は、1940年代アメリカの女性向けコミックスの黄金期から1960年代その衰退期までを分析しながら、マンガがどのように、そしてなぜアメリカの女性読者を惹きつけるのかについて考える。(大城房美訳)
<溝口彰子>ビジュアル&カルチュラル・スタディーズ・やおい研究
「反映/投影論から生産的フォーラムとしてのジャンルへ:ヤオイ考察からの提言」
日本における女性による女性のための、男性キャラクター同士の性愛を中心に描いたマンガとイラストつき小説群のジャンルを広義のヤオイとして、1970年代少女マンガの中の「美少年マンガ」を始祖とすれば、40年近い歴史を持つ。私は、ヤオイは誰かの現実を反映するものではなく、また単なる個人的ファンタジーの投影でもなく、さまざまな性指向の女性たちの欲望やファンタジーと政治的、社会的現実が衝突する闘技場から生まれる表象であり、そして生まれた表象は主体の現実に影響を持ちうる、という前提で考察を行ってきた。数十年にわたって女性たちの性的なサブカルチャーとして活発に機能し続けている希有な言説空間であるヤオイ。ボーイズラブ商業出版中心となって約15年の今日のヤオイ・ジャンルでは、同性愛支持的(homophile)な作品や、「受」キャラクターが性的主体であるという意味で、あるいは、物語が直接的に既存のジェンダー制度を問題化するという意味でフェミニスト的な作品が増えており、フェミニストかつクィアなフォーラムとしてのヤオイのさらなる生産性を理論化することは急務である。また近年ヤオイがYAOIあるいはBLとして世界中に普及し、トランスカルチュラルな愛好家の交流も増えている中、このフォーラムはグローバルなそれと接続している。本報告は、ヤオイにとどまらず、「コミックス/マンガ」のジャンルを現在進行形の生産的なフォーラムとして理論化する行為の有効性について、国際的な「コミックス/マンガ」研究者との対話を始めるべく、投げかけるものである。
<ウェンディ・ウォン/黄少儀/Wendy Wong>ヨーク大学芸術学部准教授
「モダンな女性の理想像 李惠珍の漫画『十三点』(十三點)を中心に」
李惠珍の「十三點漫畫」は 1966年に登場するやいなや、香港コミックス界の伝説となり、作品、作者ともに香港では誰知らぬものもない存在となった。この漫画の主役は十三点嬢という、アジアのどこか、名前はわからない都市に生きる若い女性である。都会的でおしゃれ、最新流行ファッションを愛する十三点嬢は、当時の読者、とくに女性読者が憧れ、理想化した、近代的で流行最先端を行く女性そのものである。本発表では、この極めて重要な女性キャラクターを、香港コミックスの展開という文脈に位置づけ、詳細に分析し、この漫画が、1970年代の社会における「理想」の近代女性像とどのように関係しているのかを明らかにする。登場以来数10年、十三点嬢伝説は今日も無敵である。作者李惠珍が、作品を再版、アップデートした新作を発表、この漫画に新しい生命を吹き込み、最近の若い世代の心をとらえ続けているからだ。40年にわたり活躍をつづける李惠珍は、香港コミックス史関係のほとんどの展覧会やイヴェントに招かれる傑出した存在である。本発表では、李惠珍は、香港コミックス界への女性たちの貢献を象徴する存在であると論じ、メディアの李惠珍への注目度についても概観する。(吉原ゆかり訳)
国際会議2009 発表要旨 | 京都国際マンガミュージアム09/11/05 17:05
http://www.kyotomm.jp/andmore/isc01_detail.php#02session01 ページ 4/7
<伊藤公雄>京都大学文学部教授
「『男』が『少女マンガ』を読むということ」
国際的なコミックス文化の交流のなかで、現在、日本の少女マンガが注目を集めつつある。その背景には、これまで、多くの国々で、少女を対象にしたポピュラ?カルチャーの生産と消費がかならずしも十分に発達してこなかったということがあるだろう。ここには、文化消費、特に若い世代の文化消費における国際的なジェンダーバイアス構造があると思う。ところが興味深いことに、日本社会においては、1970年代以後、少女を対象にしたコミックス文化が急激に成長した。現在、日本は、世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数で世界130カ国中98位というジェンダー・ギャップの大きい国である。その日本において、なぜ、1970年代、少女文化が急成長をとげたのか。少女像の描写やストーリーの展開などに目を向けつつ、少年マンガ以上に少女マンガに熱中した当時の若い男性の一人として、若者文化のなかでの少女マンガの位置について、個人的な体験を踏まえて考察してみたいと思う。